「目指したのは、アウトドアヘッドホンの最高峰」 設計者に聞く、「MDR-D777SL」の秘密(ソニードライブ)
自分も発売日にゲットして絶賛愛用中のアウトドアタイプのオーバーヘッドバンド式ヘッドホン「MDR-D777SL」(以下D777)のレビューがソニードライブに掲載されました。レビューアーは我らが小寺さんで、設計担当の角田さんとマーケティング担当の野田さんへのインタビューを交えながら、その魅力をめいっぱい伝えてくれています。
先日ちらっと予告しましたが、自分も19日にSMOJを訪問してこのヘッドホンについて色々とお話しをお伺いしてきました。その内容をできるだけ詳細にレポートしようと思っていたのですが、大半は小寺さんが書かれていることとだぶってしまうので、自分が小寺さんのレビューに書かれていないことを補足したいと思います。ということで、小寺さんのレビューをかっちり読んでいただいたという前提でお読みください。
自分がお会いしたのは小寺さんと全く同じで、角田さんと野田さんのお二人。小寺さんをして「ヘッドホン好きの筆者が個人的に「ヘッドホンマスター」として敬愛する人物」と言わしめる角田さんのバックグラウンドについては、実はお会いした段階でも何も知らなかったので、後からおもいきり恐縮してしまいました。そんなにスゴイ方とお話しできた自分はマジでラッキーです。と、それはさておき、D777の開発の背景には「eggo」(<懐かしい!)のロングヒットがあったようで、特に「MDR-D77」は海外での評価も高く海外の営業さんからも同カテゴリーの新製品を期待されていたみたいです。D777の売りというか特徴のひとつでもある「サウンド・イン・ダイアフラム」も元はといえば「eggo」採用されていたものなんですよね。
その、ワンプッシュで周囲の音が聴けるという「サウンド・イン・ダイアフラム」なんですが、購入直後のレビューでも書いたように、バラシもしていないので、どんな構造になっているのかさっぱりわからなかったのですが、なんと今回目の前で角田さん自らがヘッドホンをバラして説明していただきました。これがその内部構造です。もしかして本邦初公開?
エレキ製品と言うことでどうしても電気回路的なイメージを持っていたのですが、全くの反対というか非常にアナログな、いわゆる「音響的」な機構なんだそうです。小寺さんのレビューの2ページ目にも詳しい解説があるので参考にしていただきたいのですが、ヘッドホンの内側に特定の周波数のみを通す振動板(ダイアフラム)があって、スイッチをクローズした状態は、スイッチの裏側の突起でダイアフラムを押さえ込むことで機能(振動)しないようになっているわけです。で、スイッチをオープンにすると突起がダイアフラムから離れ、特定の音が通過していくということらしいのです。
ちなみに、スイッチをオープン側にスライドするとスリットらしきものが視認できます。これ、全く気がつかなかったのですが、この隙間から音を取り込むんですね。その音がダイアフラムを経由して音が耳に届くというわけです。お話を聞いた後、帰り道でD777を使って色々試しましたが、雑踏の中などでは確かに人の声が良く聞こえてました。自分のように、自宅でこもって音楽を聴いている時に使ってもあまり意味が無いですが、アウトドアでは威力を発揮しれくるってことですね。(冬場は耳を寒さから保護してくれるので良いですよ~。反対に夏はちょっと暑いかもしれないですけどね…)
それとヘッドホンの外装でデザインのポイントのひとつにもなっているアルミのヘアライン仕上げについても相当なこだわりがあることがわかりました。レビューにも角田さんご本人の言葉として出ていますが、実は3次曲面のヘアライン仕上げというのはかなり難しいらしいのです。自分はこのヘアラインのパーツはてっきりプラスチックのメッキ仕上げかと思っていたのですが、アルミ製と聞いて驚いてしまいました。さらにSONYロゴも削り出しと聞いて二度びっくり。しかも曲げ加工でヘアラインじゃないですか。で、この曲げ加工は実は日本のとある工場の職人芸なんだそうです。クリエでもT400などがアルミのしぼりで同様の職人技が活かされていましたが、ソニーデザインはこうした匠の技があってこそカタチになるのだということがよーくわかりました。
実は職人技はこれだけではありません。ヘッドバンドとハウジング部を繋ぐスチールパイプがありますが、このパイプにも職人技が活かされているのだそうです。このパイプには片出しコードを実現するためのケーブルを通すため穴が空いているのですが、ここで使われているケーブルがこれまたすごい。画像をご覧いただければおわかりの通り、このパイプの表面にスリットがありますよね。ケーブルを通すだけなら素直にパイプに通すだけで良いじゃないかとも思うのですが、なんとこのヘッドフォンのためにカールタイプのケーブルをわざわざ開発したそうなんです。
自分は話を聞くまでスプリングか何かとばかり思っていたのですがこれがケーブルだったとは…。で、このケーブルをデザイン的に見せたいというデザイナーの要望から、パイプの表面にわざわざスリットを設けたということらしいです。見せる必要のないものをあえて見せてしまうというのが何とも面白いですね。さらに、このパイプにはヘッドバンド調節用の溝の加工が施された上で、キレイに曲がっているのですからどれだけすごいんだって話です。40mmHDドライバーユニットを新たに開発したのもすごいのですが、D777には音以外の部分でも細部に渡ってたくさんのこだわりが秘められていたのですね…。ちなみに、自分の買ったD777はMade in Thailandでしたが、アルミのヘアラインやパイプは日本で加工していて、それを輸送してタイで組み立てているそうです。
また、D777の音作りの基本は原音忠実再生だそうです。チューニング的にもモニターヘッドホンよりで、一番大事にしているのはど真ん中で聞こえるボーカルとか。自分も購入後のレビューで書きましたけど、ボーカルがちゃんと前に出てくるのでものすごく聞きやすいです。ヘッドホンが広帯域の80kHz再生を実現していてもそれをちゃんと鳴らしてくれるハードが少ないので、ヘッドホンの真の実力をなかなか実感できませんが、ゆくゆくのことを考えると余裕があるのに超したことはありません。どんなソースにも耐えうる能力を持っているということは、長く使っていけるという安心感にも繋がります。
そんなD777ですが、小寺さんも書いていらっしゃいましたが、ソニー製品で7が3つもつくのはかなり特別なことなんですよね。それだけ自信作であるということなんでしょう。角田さんもアウトドアタイプのオーバーヘッドの定番になってくれたらうれしいとおっしゃってました。ちなみに、角田さんはD777のことをディートリプルセブンと呼んでいらっしゃいましたよ。これからは自分もそう呼ぼうっと。
ソニーがヘッドホン開発で長年培ってきた技術とこだわりのデザイン、そして日本の職人芸が融合してできあがったヘッドホンが「D777」なんですね。いや~、ますます愛着が沸いてきました。少々お高いですが、以前のレビューでも書いたとおり、10年使おうと考えれば十分元も取れます。住宅事情や金銭的にピュアオーディオの世界に手を出せないという人でもこのヘッドホンがあれば、十分高音質なサウンドを楽しめますし、なんと言ってもその環境を手軽に外に持ち出せるというのが素晴らしいと思います。ということで、機会があったら是非手にとって、もとい、耳にしてみてください。素直な音なので始めは「こんなもんかあ」と感じるかもしれませんが、使っていくうちにその良さが実感できると思いますですよ。
蛇足ですが、エージングについて聞いてみたところ、最近のインナーイヤータイプのものを含めソニーのヘッドホンに関して言えば、キカイで計測した上では効果は無いようです。基本的にはベストな状態で出荷しているということですね。ただ、ヘッドホンの場合はハウジングのウレタンが変形するだけでも音が変わる場合があるので、一概に効果が無いとも言い切れないとのこと。聞く人の耳のカタチが違えば音も違ってくるでしょうしね。見えないだけに音響の世界は難しいというか、奥が深いですよね…。
最後になりますが、今回お話を聞く機会を与えてくださったSMOJさんとただの1ユーザー相手に丁寧に応対してくださった角田さんに改めまして感謝いたします。
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