« Sony Dealer Convention 2007 視察レポート(9)~ロケフリ編(後編) | メイン | 秋なのに真夏のようだった野音のキリンジライブ »
2007年9月17日
Sony Dealer Convention 2007 視察レポート(10)~ヘッドホンセミナー編(1)
ロケフリセミナー終了後、しばしの休憩をはさみ、ヘッドホンセミナーへと突入。このセミナーに限っては、1時間で「パーソナルフィールドスピーカー(PFR-V1)」と密閉型ヘッドホン「MDR-EX700SL」の二つの製品のプレゼンが行われました。前者は厳密にはヘッドホンではないのですが、ひとまずヘッドホンセミナーとしてくくらせてもらいました。
ということで、まずは「PFR-V1」について。コンベンション会場では、ほんの数分しかいられなくて、マイケルジャクソンの曲をほんの少し聴いただけでしたが、そこから出てくる低音にびっくりしたことだけはホームオーディオ編でお伝えしました。会場では視聴だけで技術的なことも聞けずじまいでしたが、慌ただしい中でもパネルの写真だけは押さえていたようで、まずはこの製品の特徴を知っていただくという意味でそちらの画像をご覧いただきたいと思います。
「スピーカーユニットを耳介(じかい)の斜め後方に配置。中高音は直接音に加え耳介から反射した音が外耳道に届き、低音は新開発エクステンデッドバスレフダクトが外耳道に直接届けることで、リアルで臨場感あるサウンドが耳もとで力強く響きます」
とパネルに書いてありますが、わからない人にはなんのこっちゃですよね。今回のセミナーでは、このエクステンデッドバスレフダクトを採用した経緯や、このスピーカーがどういう過程を経て商品化されたのかが、オフィシャルサイトの開発者インタビューにも登場している山岸さんご本人の口から語られました。以下のレポートをお読みいただければ、このエクステンデッドバスレフダクトという名前にするとカッコイイ技術が実にアナログな驚きのアイテム活用により生まれたことをご理解いただけると思います。
さてさて、始めに自己紹介があり、山崎さんがいままでどんな製品開発に携わってきたかを説明してくださったのですが、「MDR-E484」、「SRS-N1000」、「SRS-GS70」って言われてすぐにその形を思い浮かべられる人がいたらたいしたものです。下はその画像ですが、これら以外にPC向けのアクティブデスクトップスピーカー「SRS-Z1」なども手がけていらっしゃったとのこと。そして、変わり種の肩掛けスピーカー「SRS-GS70」が今回のPFR-V1の開発に直接つながったようなのです。
この後、簡単な製品の概要解説があり、先述のわかりにくいパネル解説を簡単に説明してくださいました。PFR-V1は、スピーカーが耳のすぐ前にあるから、スピーカー音が、あるものは直接、あるものは耳に反射して、合わさって鼓膜に伝わること。また、耳のカタチは一人一人違うから反射している周波数も違うんですって。だけど、自分の耳に反射して聞こえるからこそ、自然に聞こえるんでそうです。(10へぇー)
もっとすごいのが、エクステンデッドバスレフダクト。耳の前にスピーカーを持っている商品は何十年も前からあったそうなんですが、低音を出すためにスピーカー自体がかなり重くなってしまっていたそうなんです。PFR-V1はバスレフ型という機構を利用して、通常だとキャビの中にダクトが入るところを外に出し、エクステンデッドバスレフダクトという名のパイプを開発。このパイプを使って耳の穴に直接低音を出すことができたので100gという軽量化も実現できたのだそうです。また、軽量化ができたから商品化されたということでした。逆に軽量化できなかったら日の目を見ることはなかったってことですね。
また、どのオーディオの教科書にも書かれているそうなんですが、スピーカーというのは点音源が良いとされているそうです。そのためにはスピーカーは小さければ小さいほど良いとされているんですって。一般的なスピーカーは、ユニットの前から出た音、後ろから出た音、スピーカー自身のバッフル面からの反射音など、原音以外の音がたくさん加わるのだそうです。それに比べてPFR-V1は、原音以外の音ものっているのだけれども、小型で耳に近距離だということもあって、ひずみ感がわかりずらい(原音以外の音を感じずにすむということでしょうね)のだそうです。なので、本来スピーカーから"だけ"出ている音に非常に近い音が聴けるのだそうです。(20へぇー)
と、以上のような説明があった後に、PFR-V1が誕生した軌跡を、プロトタイプを使いながらその場で順を追って説明してくださったのですが、まー、これがすごかった。肩掛けスピーカー「SRS-GS70」の開発後、今でも継続販売中のアクティブスピーカーシステム「SRS-AX10」を手がけたそうですが、なにせ小型ですから低音が出ないと・・・。
そこで、会社の自販機にあるストローを持ってきて、半分に切って加工して、キャビにチューインガムのような粘着性のゴムで付けてみたと。それが下の写真の中央。基本的にはこれで開発完了だそうです(ここで一同大爆笑)。難しかったところはストローのカットだったそうで、この発言にも大爆笑でしたが、正味数分の出来事とはいえ、これがまさにエクステンデッドバスレフダクト誕生の瞬間だったということなんですね。(満へぇー!)
で、このストローの付いた「SRS-AX10」から出る音を聞かせてもらったのですが、まあ、これが不思議と低音が出るんですよ。参加者一人一人が実際にストローを耳に当て聞いて確認しましたけど、自分を含め、皆、素直にびっくりでした。理屈はちゃんとあるんだけど、音は見えないですからね。その後、「ということで、開発費はほとんど0です」との発言にまたまた皆大爆笑。
ただ、実際はそこからが非常に大変な苦労の連続だったそうです。多少なりとも耳から離して使うということで、高出力のために磁気回路を強くする必要があり、ネオジウムマグネットは今使えるもので最高のものを使い、ただマグネットを強力にしてもダメなので磁性材料(だと思うのですが)を良くしないといけないということで、試作品に通常は鉄を使うところを値段が鉄の100倍もする「パーメンジュール」という合金を使ったそうです。
聞き慣れないこのパーメンジュールという金属、マニアックなホームスピーカーの数十万円する磁気回路に使われているのだとか。で、実際に音を聞いてみたらあまりに良くて、そこからもう後戻りできなくなってしまったのだそうです。実際、この合金を使うことで定価が5千円あがっているとのこと。試しに使ってみたものの、パーメンジュールが持つ特性も手伝って、結果的に良い音作りにつながったと、そういうことのようでした。
以降は、音量のでないPSPやバイオで快適に使えるようにブースターを付属したこと、リスニングルームを手軽に持ち運ぶという意味で付属品が全部収納できる専用ケースを付けたこと、装着方法のコツ、などの説明がありましたが、その辺の詳細は割愛して、最後に商品化に苦労したエクステンデッドバスレフダクトの加工についての説明がありました。素材や塗装方法、難しい曲げ加工、などなど、耳に直接触れるパーツということもあって何度も何度も試作を重ねたそうです。また、低音がはき出される穴の向きが最終的には当初とは逆になるなど、商品化への道のりには実に多くの試行錯誤が繰り返されたようです。
ちなみに、今回のセミナーで紹介してくださったエピソードの大半は、オフィシャルサイトの開発者インタビューでも読むことができます。自分は何分にも技術的なことはわかりませんので、そちらもあわせてお読みいただくことで、このスピーカーが生まれた経緯や、そこに込められた開発者の熱意を感じ取っていただけると思います。ということで、楽しいセミナー本当にありがとうございました>山崎さん。
この「パーソナルフィールドスピーカー(PFR-V1)」、誕生の背景やその構造、音へのこだわりや、使用感を含め、非常にソニーらしいユニークな商品であることは間違いないです。自分も先立つものがあればという前提ですが、素直に欲しいと思いました。
あ、でもその前にまずは自分の家にある小型スピーカーにストローをくっつけてどうなるか試してみようかな・・・。
次回はいよいよ耳型職人登場のEX700SLセミナーのレポートです。