Sony Dealer Convention 2007 視察レポート(11)~ヘッドホンセミナー編(2)

表だって出しにくいような秘話を話せればという前置きでスタートした「MDR-EX700SLicon」のセミナー。講師は、オフィシャルサイトだけでなく、NHKのサラリーマンNEOの「はたらくおじさん」コーナーで、ヘッドホンを作るおじさんとして全国にそのお顔と名前をとどろかせた(?)五代目耳型職人の松尾伴内じゃなくて松尾伴大さん。

sdw2007_54.jpg

EX700iconの特徴はそのユニークな形だけど、それは装着性と高音質の両立を目指した結果ということで、それらの検証に使われたあの耳型がいきなり登場。実際の人の耳をいじるのは大変だけど、グリグリやれる(いじり倒せる)のが耳型の良さ。しかも切っちゃえる!人の耳は外からしか見えないが、切ることで中が見えるというのが大きなメリットになるそうです。EX90もこの耳型を実際に切って、色々な耳の外耳道の構造を解析した結果、あのようなカタチになったとか。ちなみに、耳型の数ですが、耳型職人として保管しているのは昔の石膏で型を取っていた時代から数えると400以上あって、松尾さんが5代目になってから20個程度採取したので現段階で計420個ぐらいはあるようです。そういえば、NHKでもそうおっしゃってましたね。

sdw2007_55.jpg

今回のEX700iconについても、16mmのドライバーユニットをどのように人の耳に違和感なくおさめられるかを、この耳型を活用したり、実際に人に装着してもらいながら検討していったと、そういうことのようです。その、16mmドライバユニット採用により、ダイナミックレンジ、周波数帯域を広げることができたので、厚みのある音、低音がゆったりしていて高音も伸びがあるという音作りをすることができたそうです。

Webでも公開中の分解図を元に解説してくださったのですが、パーツはEX90よりも減っているそうなんです。減ってるんですけど言いようによっては増えているとか。それが、ドライバーユニット。クルマで言うエンジンの部分に、非常にこだわったのがEX700SLiconだそうです。筐体にマグネシウム合金を使ったことで、材料の肉厚を薄くすることができたと。通常のプラスチックだと0.7~0.8mmぐらいにしかできないけど、マグネシウムだと0.5mmぐらいまで薄くできるとか。

また、ドライバーユニットと本体が一体構造になっているのも大きな特徴。EX90は分解図ではドライバーユニットを1つで示してしていたけど、EX700iconではドライバーユニットを分解して見せているそうです。これは、今回のドライバーユニットをEX700iconのために1から作っていているからなんですって。部品が減ったのは、ドライバーユニットをハウジングの中に直接組み込んでいるから。クルマで例えるなら、ボディにエンジンの機構を組み込んだと、そういうことです。そうすることで、薄くできるし、部品が減ることで、部品間の結合部の余分な振動も無くなるというメリットもあるとか。

sdw2007_59.jpg

また、EX90の一台一台の手作業による調整は、自分たちが思っていた以上にお客様の琴線に触れる部分があったとこのとで、今回のEX700iconも同じことをやっているそうです。同じことやっているのだけれども、今回はわざわざ独自の音響調整機構を取り入れたのが大きな違いだそうです。EX90の時は組み立ての過程で調整したそうなんですが、EX700はこの機構の採用によってお客様の手に渡る、つまり完成した状態で最終の調整ができるとか。調整専用にネジを使った機構を入れることで、これまでは感覚的にやらなくてはいけなかったところをネジの調整という比較的微調整がきく構造を取り入れた点がEX90との大きな違いみたいです。

また、ドライバーレジスターという部品は、圧縮ウレタンといって、発泡ウレタンを圧縮したものを使用しており、伸縮性をもった通気抵抗部品になっているので、その圧縮具合(つぶれ具合)によって、通気量が変化することを利用。機構的に圧縮ウレタンをつぶしたり緩めたりして調整するそうです。というようなことで、EX700iconは最後まで人の手で調整・管理された音質で出荷できるということなんだそうです。

sdw2007_58.jpg

440kJ/m3のネオジウムマグネットについても説明がありました。数字だけ見ると高磁力のマグネットだなあということはわかってもらえるのだけれど、実はこれが普通に作れないんだそうです。通常のマグネットは上から磁力をかけながらプレスするので縦方向の磁力を持ったドーナツ状になるが、縦に磁力が向かおうとしているところを、上からつぶすので少しゆがんでしまうのだとか。それを避けるために、磁力を横にかけながら横を向いているまま押さえる方式の「横磁場プレス法」を採用したそうです。なんのこっちゃな話ですが、要はこのやり方だと磁力が弱まらないんですって。ただ、この方法だと磁石が平べったくならないので、ある程度のカタマリでつくらないといけない。で、それを削り出して円盤状にしているのだそうです。

通常のヘッドホンのマグネットがドーナツ状のカタチをしているのは、実は生産性を上げるためだったりするそうなんですが、横磁場プレス法だと穴が空けられないので作るのが難しく、手間がかかるので一般的には使われないそうです。そうい工法が使われるぐらいですから、EX700SLiconはそれだけの手間をかけてやっていますと、そういうことなんですね。

ちなみに、440kJ/m3のネオジウムマグネットを採用した機種は過去に二つ。「QUALIA 010」とQUALIAのMDに付属し後に単品販売された密閉型インナーイヤーレシーバー「EXQ1」だけだそうです。マグネットの強さはクルマで言うと排気量の差、磁力を高めることで音圧を高めることもできるし、信号に対する振動のレスポンスも高めることができるということで、非常にメリットがあるとのこと。

またEX700iconについて、他のパーツと比べてコードが普通だねと良く言われるそうですが、実は見た目は普通だけどが中身が違うんだそうです。通常は芯線という細い導体性の材料を12本を束ねているがEX700iconは19本使っている。こうすることで、導体抵抗の低減や屈曲に対しての強度が増すメリットがあるそうです。また、コードの外側がそのままなのは意味があるそうです。コードに触れたときのこすれ音などがよく言われますが、音楽の邪魔をしない材料に関するノウハウをソニーはたくさん蓄積しており、検討を重ねた結果が普通に見えるコードに落ち着いたと言うことです。布巻だと高級感は出るが音質を損ねる。見た目が普通でも音質が良いほうが良いと言うことだそうです。

sdw2007_57.jpg

その他、イヤーピースや付属のケースについての簡単な解説がありましたが、それは割愛して、この後、質疑応答タイムになりましたが、その前に実際の音を聞いてみようと言うことで、CDプレイヤーとEX700iconの組み合わせを皆で順番に体験しました。サンプル音源は、オルガントリオ「Soulive」のアルバムで、これを選んだのはEX700iconの低音の表現能力を良く体感できるからだそうです。下は実物の画像。色々と角度を変えて押さえてみました。ちょっと大きめですが、お許しを。

sdw2007_56.jpg

で、自分のところにそれが回ってきて、実際に耳にしてみてまず驚いたのがその軽さ。ネオジウムマグネットがEXQ1と同じものと聞いていたこともあって、それなりの重さになるのかなと思ったのですが、そうじゃないんですね。EXQ1の重さは真鍮のメタルハウジングでしたから全くの見当違いだったわけですが、そういう変な固定観念を持っていたので逆に軽さが新鮮に感じたんでしょう。

そして、肝心の音ですが、一言で言うと「パワーがある」ヘッドホンですねコレ。EX90には無いキャラクターです。音の厚みだけでなく、熱さそのものまで感じられるようなイメージ。エネルギッシュな音楽をよりエネルギッシュに聞かせる増幅感のようなものを感じました。装着感はちょっと不思議で、これは後のソニービルでも確認したのですが、浮いているというか、ハウジングが耳介に触れずにイヤーピースだけで固定されるような感じなんです。これは本体の軽量化と新しいイヤーピースの構造によるものなんでしょうね。一応、その場で手持ちのウォークマンにつなぎ替えて視聴させてもらったのですが、普段聞き慣れている音楽で聞くのが一番わかりやすいですね。AB’Sのアルバムを聴いてみたけど、音に力があることを感じられました。

とはいえ、音は難しいですからねー。店頭やショールームなどで視聴する機会があるなら、普段聴いている音楽を入れたプレイヤーを持っていって聴かせてもらった方が良いと思います。開発にどんな苦労があろうが、どんなに高いパーツを使っていようが、最終的に信じられるのは、自分の耳ですから。自分にしても、3万オーバーのヘッドホンは今の今まで買ったことはありません。だからこそ、こうして視聴できる機会を持てたことはありがたいことでしたが、やはりその場での視聴は限りがあるということで、この連休最終日にソニービルで再確認してきたわけですが、最終的な結論としては、とにかく買ってみようと決めました。

イヤーピースのバリエーションを色々試してみたいし、ジャンルの違う音楽でどんな音が飛び出すのかも試したい。つまりは、このヘッドホンで遊びたい。そう思ったからです。実売でもおそらく3万前後ですし、決して安い買い物ではないのですが、Rolly同様、面白いじゃないですかー、最近のソニーのオーディオって。なんか載っかってみたくなったんです。ということで、おサイフ的には非常に苦しいのですが、一番大好きな音楽のための投資ということで、自分を納得させました。

と、話がそれましたが、セミナーの最後の質疑応答で、自分はEX700iconの遮音性についてたずねてみました。EX90は大ヒットしたけど、数少ない不満として音漏れを指摘する声が多いように感じますが、その辺についてEX700はどうなってるんですか?というような質問です。(ちなみに、質問した時点では自分がソニ☆モバのSPAであることはお伝えしていません。)

iconiconこれに対しての答えは、EX700は最初から意識して遮音性を高めているけど、EX90で遮音性の低さが指摘されたからという意味合いでは無く、あくまで、高音質を追及する上で、遮音性も要素の一つとして捉え開発しました、と、そういうことでした。逆に考えると、遮音性能を意識した結果、EX90とはまた違ったキャラクターを持つヘッドホンが生まれたということなのかもしれません。だからこそ、ヘッドホン開発って面白いのかも。

そんなこんなで、セミナーもお開きになり、改めて正体を明かしてご挨拶。とりあえず、このサイトの存在については認知していただけていたようで、うれしいやら恥ずかしいやらでしたが、自分の耳でよければ協力させてくださいなどと、大胆不敵かつ図々しいお願いをして、会場を後にしたSPAでございました。もちろん、耳型は誰のもので良いというわけでなく、すでにある420個とは違うカタチの、松尾さんなりの目的にかなう耳でないといけないわけです。ただ、一言松尾さんが「面白い耳ですね~」とぼそっとおっしゃったのは聞き逃しませんでしたよ~。もう、いつでもオフィスに行くから取って取って、オレの耳型ーっ!(<変態か)・・・という、冗談はさておき、これまた非常に楽しくてためになるセミナー、本当にありがとうございました>松尾さん。発売までまだ日がありますが、最後のチューニング頑張ってください!

耳介、もとい、次回はRollyセミナー編を予定しています。

(勢いで書いたんでまた長くなっちまいましたが、何か思い出したら追記&または修正します。かなり記憶も薄れてきましたが、あと少しで終わるんで残りもがんばりますー。オレの記憶領域はウォークマンの1GBモデルよりも断然少ないのですが、今回はかなりクリエのボイスレコーダーに助けられました。ロケフリの時は録音し忘れたんですけどね・・・)